幸せの椅子

俺は幸せを求めて人生を生きている。

しかし、俺は一度も幸せで満ち足りることはなかった。

幼少期時代から人生に絶望していた。

今でもアパートの隅で世界が滅ぶことを祈っていた記憶が残っている。

俺は昔から弱い人間だった。

直ぐに泣き、自分の意見も言えず、心の中で叫ぶ。

人畜無害。その言葉は正しく俺のためにあるようなものだ。

そんな生活をずっと続けていたある日。何かが壊れ始めていたことに気が付いた。

限界を迎えたダムが今にも崩壊しそうな状況。既に手遅れの可能性が高い。

俺は幸せが欲しかった。心が満たされるような何かを。その椅子に座りたかった。

だけど、その椅子はいつ見ても誰かが座っている。

自分が座ろうとしても誰かに身体を押されて奪われてしまう。

だけど、諦めずに何度もその椅子を眺めていた。

努力はした。寝る間も惜しんでその椅子を見張り続けた。

やっと空いた。希望が見えた。

意気揚々とその椅子に座ろうとする。

すると後から来た人が俺を殴って無理やり椅子を奪った。

その人間は満足そうに笑っている。幸せの椅子に座っている人も同様に笑っている。

そして俺も笑顔になった。

だけど嬉しくて笑ったんじゃない。

周りに同調して笑っているんだ。

そのとき、死にたくなった。

自分が憎くて死にたくなった。

もうどうなったっていい。今日死のうと思った。

だけど死ぬ勇気は持ち合わせていなかった。

もしそれがあれば俺は幸せの椅子に座ることができたのだろうか。

どうしようもない。失うものはない。

ならどうする。

答は決まっている。

全てに無責任になり、同調せず、ただ本能に従えば良い。

どんな悪役だって突き抜ければヒーローになる。

いかれていても、頭が悪くても、才能が無くても、不細工でも、運が悪くても。

人間であれば良い。赤ん坊のように純粋でいよう。

そうすればいずれ幸せの椅子に座ることができる。

今まで馬鹿にしていた人間を蹴飛ばしてその椅子を奪還することができる。

人生は椅子取りゲームなのだ。

今まで味わったことのない幸せを堪能するんだ。

この幸せの本質は誰もが知っている単純な事。

それが人間を激しく進歩させてきた。

だけどその分血も多く流れただろう。

それを知ってもなお、欲しいのだ。

人間は動物だ。神じゃない。理想だけじゃ生きていけない。

自分以外はどうなって構わない。

みんな椅子を巡って争い続ける。

それは決して悪ではない。本能なんだ。

自分に都合の良い人生なんてある訳がないだろ。

人が勝手に自分の事を好きになるか? 金が降ってくるか?

この世に良いも悪いもない。それは強者の考えた妄想だ。

その強者はいつも幸せの椅子に座っている。